小林 和貴さん

シンガポールで過ごした高校時代に化学の実験の面白さに目覚め、応用化学科への進学を決めました。

小林 和貴(こばやし かずき)さん 先進理工学研究科 応用化学専攻 小柳津・須賀研究室 修士課程2年 早稲田渋谷シンガポール校出身

Q1.化学の道を選んだ理由は?

高校生のはじめの頃は、実は化学は好きではなかったんです。自分は暗記が苦手だったので、化学は苦手と思っていました。実際に実験をやって手を動かしたりするうちに、化学を学ぶというより、化学を使うのって面白いなと思うようになりました。化学を使うのは楽しいなと思って、化学が好きになりました。大学進学で応用化学科を選んだのも、化学を応用する学科なので、ここだったら、学んだ化学の知識を使うことができて楽しそうだなと思ったからです。

 

Q2.早稲田大学大学院応用化学専攻の修士課程に進学を決めた理由は?

大学に入学した時は、場合によっては学部で卒業してもいいなと考えていました。修士課程への進学を決めたのは、研究室に配属されてからです。学部の授業は最初の方は座学の比重が大きいですが、3年の後期に研究室に配属されると、そこまで学んできた化学の知識を実際に自分の手を使って活用することになります。それを続けて行くとアイデアがどんどん出てきて、この経験は1年と少しでは足りないなと思うようになりました。「これは修士課程に行った方がいい」と思い、修士課程に進んで研究を続けています。

 

Q3.研究テーマを教えてください

簡単に言うと、水素をフィルムのようなシート状の高分子材料に閉じ込めて、そのままポケットに入れて持ち運べるようにしようという研究です。今、主流なのは水素をマイナス253度近くまで冷やし、無理やり液体の状態にして運ぶ方法高圧ボンベで運ぶ方法です。液化水素を入れる容器として頑丈な断熱容器を用いる必要があり、高圧ボンベ大きいものでは中の圧力が200気圧ぐらいになります。超低温または超高圧という条件が必要で、容器に穴が空くとそこから水素ガスが流れ出すので、大きな事故に繋がる危険も伴います。プラスチックに代表される高分子材料に閉じ込める方法であれば、安全ですし、高圧、低温などの条件で容器に閉じ込める必要なくなります。そういう材料をどうやって作ろうか、という研究をしています。貴重なエネルギー資源である水素をより安全に簡単に低コストで運搬できるように、今頑張っています。

 

Q4.高校生の時はどのように過ごしていましたか?

父の仕事の関係で、シンガポールにある早稲田大学の系属の高校に在籍していました。そのときの化学の先生がちょっと変わっていて、「ここにあるものは何でも使っていいから好きに実験してみましょう」と言ってくれたんです。それで友達とワイワイしながら好きに試して、これは面白いなと思うようになりました。理系に進もうというのは決めていたのですが、将来、大学で研究室に所属してという具体的なイメージが持てたのはこの時の経験のおかげです。実は、高校生の時は、「忙しすぎてやりたいこともできないんかなー」と半ば諦めモードでした。実際に大学に進学してみると全然そんなことはなくて、できることならあの頃の自分にそんなに悲観的にならなくていいよと言いたいです。

 

Q5.研究で今いちばんやりがいを感じている点は?

化学の研究では、最初に思いついた反応がすんなり進むことはまず無くて、試して、試して、試して、とやっていくうちに「あ、これならうまく行くんじゃないか」というヒラメキが生まれます。ヒラメキが生まれるのは、実験中であったり、他の論文を読んでいる時であったり、雑談みたいに友達と話している時だったりとさまざまです。そこで試してみて、「お、これでうまくいった」となったときにすごくやりがいを感じます。気がついたら研究室の中で「やったー!」と大声で叫んでいたりもします。周りの反応も「おーやったじゃん」とか「わー、羨ましい」みたいな感じで一緒に喜んでくれます。失敗することも多いので、試してみてうまくいったときは、テンションがあがります。

 

Q6.研究室生活で心に残っているエピソードを教えてください

自分の場合、学部4年が一番忙しく過ごしていました。実験の要領などもまだわかっておらず、月1回の発表のためのデータを出すのに必死でした。1年間 一心不乱に頑張って修士課程へ進学時にちょっと一息ついて振り返ってみると、細かいところを詰めて研究している時にウキウキしたりテンションが高かったりしていたことに気づきました。自分のことは大雑把なタイプだと思っていたので、「自分って実はこんな人だったんだ」という発見がありました。

学会の発表で、他の大学の教授の方や企業の方が聞きにきてくださって、「君がこの実験やったんだ、すごいね」みたいな感じで褒めてもらったときに「やっててよかった」と思いました。全く知らない初対面の方に評価していただけというのはすごく印象に残っています。

 

Q7.将来の夢・進路は?

修士で卒業して高分子を扱っている化学メーカーに就職する予定で、現在内定をいただいています。研究室の扉に募集の案内が貼ってあり、自分の志望していた企業と一致していたのですぐに応募し、面接1回ですぐ決まりました。その前にお試しのつもりで1社しか受けてなかったので、就活したという実感はあんまりないですね。水素の研究をあまりやってない会社なので、研究室で学んだ高分子の知識を使って研究をできたらなと思っています。高分子は、車のタイヤや飛行機の機体から、身近なペットボトル、スマホのフィルム、マスクまで応用範囲が非常に広いので、何か役に立つものを作り出してみたいです。

 

Q9.受験生へのメッセージをお願いします

例えば、スマホに貼るフィルムで傷がついても時間が経てば戻る機能を持つ高分子フィルムがあります。それを「直るんだ、すごいじゃん」で終わるのか「なんで直るんだろう?」と気になって調べてみるのか。気になって突き詰めて行くのが好きな人は、化学の道に向いていると思います。こういう仕組みで直るんだ、じゃあ、こうすればさらに良くなるんじゃないか、考えていくことも多いので、細かいことを突き詰めて行くのが好きな人は向いています。化学というのは、厳しい世界だというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、やればやるほど面白さは増えて行くので、思い切って飛び込んでみたら楽しいこともたくさんあるよと伝えたいです。

知識としての化学だけでは終わらない。
使える化学を学んで、鍛え上げられた人材に。