彌富 昌さん

化学的な想像を実験で示し、未知の現象を解明できた時には感動します

彌富 昌(やとみ まさし)さん 先進理工学研究科 応用化学専攻 下嶋研究室 博士後期課程1年 桐光学園高等学校(東京都)出身

Q1.化学の道を選んだ理由は?

高2の時の高校の化学の先生と高3の時の予備校の化学の先生の影響で、化学って面白いなと思うようになりました。昔から鉱石や金属など、無機物の色が好きで、化学の資料集に載っている硫酸銅の青色が綺麗だなあと思って、実際に硫酸銅を作ってみたりもしました。高校の授業の中では実験の時間があまりなかったので、東急ハンズで試薬を買って自分の家で友達と実験したりもしていました。早稲田の応用化学科は実験も多いので楽しく学べそうだなと思って選びました。

 

Q2.早稲田大学大学院応用化学専攻の博士課程に進学を決めた理由は?

実は、修士で就職しようと思って活動していたのですが、修士でやっていた研究が楽しくて、この研究をさらに深めたいという気持ちが出てきました。また、就職活動中にいろいろな企業の人と話していると、博士の学位を持っていることの価値の高さを感じました。海外では博士号を持っていないと研究者として認めてもらえないことがあると聞き、将来的に研究活動を続けるのであれば、自分も博士の学位取得に挑戦してみようかなと思うようになりました。

 

Q3.研究テーマを教えてください

ナノ材料に関する研究をしています。研究に使っている材料は、層状ケイ酸塩という主にケイ素と酸素から構成される特殊な鉱物です。この層状ケイ酸塩の層表面や層間の構造を化学の力で自在に設計することで、環境問題やエネルギー問題の解決につながる触媒や吸着材などを作る研究をしています。鉱物と言っても白色で細かい粉末状です。この粉末を拡大して見ると、薄いシートが何枚も重なっているようなもので、この1枚の厚さが1ナノメートル(10億分の1メートル)ぐらい。肉眼ではもちろん、光学顕微鏡でも見えない薄さです。面の方は数マイクロメートル(100万分の1メートル)で顕微鏡を使えばなんとか見えるサイズです。そのため層と層の間にナノメートルレベルの高さですが非常に薄く広い空間が広がっています。私はこの薄いシートの表面に機能を持たせる研究をしていまして、これまではいかに効率的に機能化するかという研究をしていました。そして今後は機能化したシートの表面や薄く広い空間を使って、層状ケイ酸塩でしか作れない触媒などを作っていきたいと考えています。

Q4.高校生の時はどのように過ごしていましたか?

小学校ではサッカー、中学では野球をやっていましたが、高校ではバレーボール部に入りました。スポーツ推薦の生徒がいない部活ということで選んだのですが、怪我をしたこともあり、思うようにプレーできませんでした。

勉強では日本史が一番好きで、高2ぐらいまで歴史の勉強ばかりしていました。文理の選択をする時にかなり悩みましたが、歴史は一生楽しめる趣味として学ぼうと決めて理系のクラスに進みました。実際に大学に進学してみると、応用化学科の中で歴史が好きな友達ができたり、他学部聴講制度を使って歴史の授業を聴きにいったりすることで、歴史への興味は満たされていました。理系の研究室に歴史好きな人は一定数いるけれど、もし文系に行っていたら友達と化学の話で盛り上がったりできなかったと思うので、この選択で自分は良かったと思っています。

 

Q5.研究で今いちばんやりがいを感じている点は?

研究していたら、この現象はなんだ?と思うような、わけのわからない現象に絶対に遭遇します。そういう時に、化学的に想像して、絶対にありえないだろうと言うような妄想レベルまで考えて、一番可能性が高そうだなというのを実験でどう示せるかにトライしてみて、実際に自分が考えた通りの結果が比較実験で出た時には感動します。それで違ったら、また別の考えに基づいて実験をしていきます。研究の面白さはそういうところかなと思います。

 

Q6. 研究室生活で心に残っているエピソードを教えてください

学部の時に取り掛かった最初のテーマはフランスの大学との共同研究でした。この研究で国際学会でのポスター賞をとることができました。(「3rd International Symposium of Silsesquioxane-based Functional Materials」にてPoster Award SFM19を受賞しました。)初めての国際学会でしかも英語で発表だったので、まさか賞をいただけるとは思っていませんでした。英語も苦手ですし。でも、みんなの前で名前を呼ばれるのは嬉しいですね。フランスの共同研究先の教授もいらしていて、自分のポスター発表を聞いてくれて、「いいね、いいと思うよ」みたいに言ってくださって、ちょっと鼻が高かったです。

 

Q7. 将来の夢・進路は?

将来の進路はまだ絞り込めていませんが、その時々で楽しいことをやって生きていければいいと思っています。研究者になりたいとは思っていますが、絶対に研究者になるんだ!みたいな感じでもなく、今、たまたま研究が楽しいので研究をやっていて、このまま研究を続けられたらいいなという感じです。小さい頃から何でも「なんで?なんで?」と聞いて親を困らせていたそうです。なんで?と思うのは今でも変わっていません。それが研究の原動力になるので、そういう意味では一番合った道に進んだと思います。なんで?と思って、実際に手を動かして確認する。それがまさに研究なので楽しいと感じるのかもしれないですね。

 

Q8. 受験生(高校生)へのメッセージをお願いします

基本的には楽しいことを大学でやればいいかなと思うけれど、将来を全く気にしないのは違うかなと思います。また、なんでも実際にやってみないと、自分に合っているかどうかはわからないので、大学に入ったらやる前に判断するのではなく、取り組んでから判断するのがいいかなと思います。大学ではいろいろなことにチャレンジしてみて、将来の方向性を見つけてほしいと思います。

知識としての化学だけでは終わらない。
使える化学を学んで、鍛え上げられた人材に。